seraphyの日記

日記というよりは過去を振り返るときのための単なる備忘録

「素人のように考え、玄人として実行する」を読む

 本のタイトルというものは、大抵、かなり怪しい。
 それで損をしている本もあれば、損をさせられる読者もあろう。

 だいたい、本のタイトルは出版社の本の内容もろくに知らない人が適当に売れそうな名前をつける悪しき風習があるようなので、アマゾンはもとより本屋でズラリと並ぶ背表紙を見て、その本の良し悪しを見極めるなど困難極まりない。
 しかも、出版社、あるいはシリーズによってタイトルのつけ方がマシだったり意味が無かったりと、多少信頼できる場合もあれば全然無い場合とあり、これも混乱に拍車をかける。
 たしかに、編集者は本の著者のように、そこに書かれている内容に専門知識があるわけではなく、本を理解して売れる・売れないを判断できるとは思えない。(中には物好きもいるとは思うが。)
 専門書に限らず、ライトノベルのような流行に敏感な文庫本であったならば、それが若年層に受けるかどうかを見極められるとは到底思えない。
 だから、とくにビジネス書などでは、タイトルがいきおい過去事例から引っ張ってきたような、ありきたりなものになるのも仕方ないのであろうが。
 だから「英語の勉強には洋書を読むのが一番、読めば英語もわかるようになるよ」ということが書いてある本のタイトルが、「洋書を読んで億万長者になろう」というタイトルになったりするわけだ。(「洋書は最新の情報を得る手っ取り早い宝の山」という主張も含まれているのだが。それがポイントな本ではないのだよ。もし、このタイトルであれば、どうゆう洋書を選択するのか審美眼を養う方法、という話しになるべきであろう?)
 まあ、この本のタイトルについては作者は、かなりイヤがったという話しであるが。

 作者あるいは作家で判断すればよいという人もあるかもしれないが、それは、正しい本の批評による買い方でもあるまい。
 作家が意図して同じ作風で続けるシリーズもの、たとえば探偵モノのような場合は、それでよいかもしれないが、そうでない場合には全然違うモノとなっている可能性が高い。
 日本の平均以下の漫画家では技量の幅がピンポイント的に狭いためか、イメチェンの努力したところで、だいたい同じような作品になるようであるが、まともな作家としては、ふつう同じ作風を数冊もつづれば、それがたとえベストセラーであったとしても厭きてくるというものである。
 読者もまた、最初の1冊を面白いと感じたからこそ、その作者の名前を覚えるわけで、作者名で買うのは2回目以降である。
 優れた著作物をもつ作者でも、分野から外れるととたんにクズ本しかかけない人もいる。たとえば「エキスパートCプログラミング」という本はきわめて優れた本に分類されるとおもわれるが、同じ人が書いた「ジャストJAVA」という別の本は、明らかにクズである。というのも、この人はC言語以外について人に語れるだけの知識も経験もないのに、おそらく出版社に急かされたか、自分の力を過信したのか、もはやC言語の時代ではないことに焦ったのか、中身が伴わないまま出版してしまったのであろう。

 タイトルで買い手が損をする本の代表としては「プログラミング VisualC++.NET基礎編・応用編」というような本であろう。これはタイトルとして正しいが、扱っている内容が不明なのだ。この例ではマイクロソフトプレスの公式ガイドブックで、見た感じも内容も、たしかにVisual StudioC++.NETを使うためのガイドブックなのであるが、買って損をするのではなく、買わないで損をするタイプである。
 Cランタイムというものは現代においてもオーバヘッドを最小限にすることが求められる過酷な場所であり、たとえ、C/C++標準がISOで規定されているとしても、それぞれベンダーが独自の工夫を凝らしている場所でもあるところがポイント。
 この本を読まないとマイクロソフトが選択した実装上の戦略と、その戦略を効果的に使うための方法を知ることが出来ないのである。(だって、これが公式ガイドだもの。)
 これ以外の情報源としてはMSDN Magazine(日本語版はウェブでのみ一部記事だけの翻訳しかない。)の記事にある断片的な情報とか、MSDNライブラリのナレッジベースからさまようという、非効率的な方法で学習するしかない。(しかも日本語訳を信じてはいけない。昔ほどではないが、現在でも英語版とは逆の説明であったり、英語版の説明の半分しか載せてなかったりすることが散見されるのである。)
 この本を単なるガイドだと思ってスルーしては、のちのちに貴重な時間を失うハメになるのである。

 と、まあ、このように、本のタイトルとは、実に意味があったり無かったり、情報としては、ほとんど役に立たないことが多いものである。

 それで、この本である。

素人のように考え、玄人として実行する―問題解決のメタ技術
素人のように考え、玄人として実行する―問題解決のメタ技術 金出武雄 著 PHP研究所

 この本がコンピュータ関連の書籍だとタイトルで分かるであろうか?
 たしかに技術的なことをテーマとしているのではなく、「技術者道」、「技術者とはかくあるべし」的な本なのであるが、たとえ話としてJAVAで有名なキャッチフレーズ、KISS(Keep It Simple,Stupid!)とか、NP完全問題とか何気に出してくるあたり、コンピュータエンジニアでないと「なんだ、この本?」と思うに違いない。
 そもそも、この本が「技術者とはかくあるべし」という教訓本であるということも、タイトルを深読みしないと分からないではないか。

 しかし、この本、実に面白い。まだ断片的に1/4ぐらいしか読んでいないのだが、さすがに経験のある人の言葉は雑談でも楽しいものだ、と感じるように、楽しい気分で読めるのである。(私は小説でも頭から読むことは、ほとんどない。そうゆうクセが付いてしまっているのだ。途中が面白くない本は、前後も面白くないことも経験的に分かっているし。)

 「出来のよい小説は構想力に優れている」とか、1997年にIBMのスーパーコンピュータがチェスの名人に勝ったとき、名人が「新しい知性を感じた」と告白したことについて、スーパーコンピュータは単純にパターンを力づくで全網羅しようとしただけで、それを知性と呼ぶべきではないと批判するものもあろうが、しかし、名人は、それを知性と認め、名人は自分の脳と対等に戦える、同じ土俵にある存在として認め、そして悔しがったのだということを書いている。
 いままでいろんな本などで得た断片的な知識が活性化されるような感じといおうか。
 刺激になる、ネタに溢れた読み物である。